オスグッド病
疾患の概念
オスグッド病はオーバーユースによる成長期のスポーツ障害の代表疾患で、膝の前面に痛みを生じる疾患です。
成長期は急激に身長が増加しますので骨も急成長を遂げます。
しかし筋や腱などの軟部組織は骨が伸びるほどは成長しません。よって、相対的に筋肉や靭帯が短く張った状態になってしまう時期でもあります。
そのため大腿四頭筋の柔軟性低下(いわゆる筋肉が硬い)によって、ジャンプなどの運動動作によって大腿四頭筋が脛骨結節部(’骨の脛骨への付着部)に加わります。
成長期の脛骨結節部には骨が成長するために必要な成長線が存在していますが、大腿四頭筋による強大な牽引力でこの骨端核部分が引っ張られます。結果ひざの下の骨が飛び出たようになります。これがオスグッド病です。
また剥離部が骨小骨として残存すると成人になってからでも疼痛が残り手術的治療も必要となることがあり、初期の対応が大切です.大腿部前面にある膝を伸ばす役割をする筋、腱は
(1)大腿四頭筋が膝蓋骨上端に付着(2)膝蓋骨を経て(3)膝蓋骨下端から膝蓋靱帯を経緯し、(4)脛骨粗面に付着して停止します。
大腿四頭筋の筋力は膝蓋骨を介して最終的には脛骨粗面部に伝わります。
発育期はこの部分がまだ骨になりきっていないため力学的に弱点になっています。
また脛骨結節部は狭いため、大腿四頭筋の牽引力によって引っ張られて遊離しやすい構造となっています。
運動ストレスが膝蓋腱付着部の脛骨粗面部に集中し、脛骨結節の骨化核および硝子軟骨が部分的に剥離骨折を起こした状態といえます。
症状
スポーツ動作全般で発生しますが、特にジャンプ動作での膝屈伸時や、ダッシュやキック動作で起こりやすく、膝蓋骨下方にある脛骨結節部に限局した疼痛と強い圧痛が主症状です。スクワット動作、ランニング、ジャンプ動作の繰り返しにより膝蓋腱の牽引力で脛骨粗面部に剥離をおこります。局所の熱感や腫張、骨性の隆起が認められます。時に両側に発生します。
ジャンプ時の疼痛が原因でジャンプ力が低下したり、ダッシュ時の疼痛でタイムが低下したりするなど、スポーツ能力の低下に直結しますが、急性外傷(突発的ケガ)ではないためにスポーツ休止の判断が難しく、現場では疼痛を抱えながらもスポーツ活動を継続している例が多いようです。
検査
レントゲン検査が最も有用で、脛骨結節部に限局した骨端核の変化や遊離骨片を認めますが、成長段階によって大きさは異なります。
X線所見は、病気の進行程度により、
- 初期:限局性透亮像
- 進行期:分離、分節像
に分けられています。
MRIはさらに有用で、骨軟骨を覆う膝蓋腱の肥厚や周囲の腫脹が確認できます
好発年齢
大半が10〜16歳で男子のほうが多いようです。
特に小学生の高学年から中学生にかけての年齢に多いといえます。
発症には脛骨粗面の発育過程(成長線の部分)が関与します。
脛骨粗面の骨化過程は、
1脛骨近位骨端部が前方へ発達し、脛骨粗面部の二次性骨化核が出現、
2脛骨近位の骨端核と癒合して舌状突起を形成、(10~11才頃)
3その後両骨端核が癒合して骨化が完成します。骨端線閉鎖(18才頃)
オスグッド病は思春期の身長が急速に伸びてくる時期の立ち上がりから身長最大発育量年令後の期間に多く発症しています。
ジャンパー膝(膝蓋骨上下に発生し、年齢は少し上)があります。
治療
保存療法が第1選択です。X線にて骨端線が分離ない状態で治癒像が得られることが最終目標です。
1、保存療法の基本は脛骨粗面に負荷を与えないために活動制限が必要です。
応急処置はアイシングが最も有効です。
炎症症状が強いときは、非ステロイド消炎剤含有の湿布や軟膏の使用、アイシングを行い炎症症状を鎮める処置を行ないます。超音波、低周波などの物理療法なども効果がみられます。
装具
またオスグッドバンドという、膝蓋腱部を抑えて大腿四頭筋の収縮の伝達を抑える装具もあります。
スポ-ツ復帰の手順
大腿四頭筋やハムストリングスの相対的な短縮があることが多く、ストレッチを徹底させます。
片足立ちをして患足の足を同側の手で持ち上げることによって大腿四頭筋をストレッチする方法が良く行われます。
オスグッドで、正しいストレッチをするために知っておくべきことがあります。。
痛みのでない範囲でストレッチをすること。ストレッチをしていて気持ちいい範囲でやることです。
さらに大腿四頭筋の強化として、大腿四頭筋の等尺性収縮や坐位での膝伸展運動から始め、両脚のスクワットへと負荷を増やしていきます。次の段階として片脚のスクワットを行います。
階段昇降を支持なくスムースに行えるようなり、片脚での蹲踞、片足とびが痛みがなく安定して行えるようになったら、軽いランニングを許可します。
その後それぞれのスポーツに徐々に復帰をさせます。
手術
骨端線癒合後に剥離骨片が残存し、痛みのためスポーツ活動に支障をきたしているときは、外科的治療が選択されます。
手術は骨片を切除し、脛骨粗面部の骨隆起部を平坦にします。
術後1週から松葉杖歩行を許可し,大腿四頭筋筋力訓練と自動屈曲を行い、3週で全荷重歩行を許可します。スポーツ復帰は12週を目標としてリハビリをステップアップしています。
成長時に、痛みが強く、日常生活にも支障があるときは骨端線癒合前に骨穿孔術(ドリリング)という手術方法が行なわれることもあります
予後
成長期が過ぎると骨も固まりますので、症状はいったん軽快します。ただし、成人になって運動による強い力が再び加わると(オーバーユース)、異常骨形成部に疼痛が発生することがあり、いわるオスグッド後遺症と呼ばれる症状がみられます。
オスグッド-シュラッター病は1903年に「発育期の活発な子供の膝に発生する外傷性の良性障害で、膝蓋腱の牽引力による脛骨粗面の剥離である」と報告されて以来、日常診療においてしばしば遭遇する疾患です
近年、成長期におけるスポーツ活動が盛んになるにつれオスグッド病の発症頻度も高くなっています。
発育期の解剖学的特徴に運動ストレスが加わったことが直接的な発症原因ですが、成長過程などの個々の誘因も発症に関与しています。いったん発症すると治癒まで長期間を要することがあり、その間スポーツ活動も制限せざるを得ないことが多々あります。
リハビリテーション
軽い症状
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スポーツ活動後や起床後に痛みを感じ、日常生活では痛みを感じない場合には、ウォームアップとクールダウンを入念に行います。大腿四頭筋の柔軟性の低下が原因ですので、特に大腿四頭筋のストレッチングを入念に、30秒間1セットを2〜3セット行います。
大腿四頭筋は内側広筋、外側広筋、中間広筋、そして大腿直筋から成ります。そのなかの大腿直筋は股関節をまたいで骨盤(下前腸骨棘)を起始部にもつため、膝を屈曲させるだけでなく股関節を伸展して行うストレッチングが必要です。ストレッチングは、座位や仰臥位で行うと床と患部が触れて痛みを伴う場合がありますので、立位で行う方法もあります。また、トレーニング後には患部周辺のアイシングも行います。
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中等度の症状
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スポーツ活動中に痛みによる支障はないが終了後に痛みが強くなり、日常生活には支障をきたさない場合には、完全にスポーツ活動を中止する必要はありません。しかし、痛みが強くならない程度に運動量(頻度、強度、時間)をコントロールする必要があります。
子どものチームスポーツでは1人だけ特別扱いすることは難しいですが、チームメイトに説明するなどして、チームの雰囲気をうまくコントロールする必要があります。ウォームアップやクールダウン、ストレッチングは軽い症状の場合と同等に行います。強めのストレッチングは患部への負担を強める可能性があるため、軽めのストレッチングを短時間で頻度を多くして行い、筋を伸ばすというよりもリラックスさせるようにします。
成長期の選手は筋力も徐々についてきて、成長の早い選手は人よりも力があるので、力任せなパワーをメインに考えたプレーになりがちです。また、神経系が発達する時期でもありますので、“器用さ”を習得する期間として指導することが大切です。痛みがある選手への運動量を調節する際に、器用さを向上させるトレーニングや、上半身を中心とした運動指導を行うとよいと思います。水泳は上半身中心の運動ですが、キックを打つことにより痛みが発生する場合には、プルブイやビート板を脚に挟み、上半身だけの運動にすることも可能です。
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重い症状
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スポーツ活動中に痛みによる支障があり、日常生活でも不便に感じる痛みがある場合には、医師の指示に従ってスポーツ活動を休止する必要があります。しかし、下肢を使わない運動は可能ですので、前述のようにプルブイを用いた水泳などを行い、体力の低下を最低限に抑えることができます。
症状が軽減してスポーツ活動に復帰する段階で注意する点は、急激な強度や量の増加を行わないことです。ランニングの着地動作でも負担がかかるため、芝生や土の上を走らせるなどしますが、遅めのスピードから始めて症状をみながら徐々にスピードを上げていきます。また、ジャンプやジャンプの着地、ランニングの急加速や急減速、急なターンも大腿四頭筋に強い負担をかけますので、痛みを確認しながらスピード調整をしていきます。
子どもはなかなか運動量を調整できませんので、コーチがうまくコントロールしてあげてください。そのため、成長期のスポーツ選手には特に柔軟性のチェック(図)や痛みのチェック(写真6)を行い、定期的にコンディションを把握する必要があります。また、ウォームアップ、クールダウン、ストレッチング、アイシングは欠かさないようにしましょう。これらを習慣化させることは、将来の競技生活にも重要なことです。
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